ひと筆申し上げます(平成三十一年三月五日)

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あるショッピングモールでのことでした


約束の時間より早く到着したので 
ベンチに座ろうとしましたが
空きスペースがないようで 
少し離れた場所に立っていました


ボンヤリしている私に 
高齢の女性が左脇の荷物を足元に移し
隣りを空けて 
私にかけるよう声をかけてくださったのです


ありがたく好意を受け お礼を言い
よくある世間話をしたあと
20分ほど その方のお話を聴きました


昨夏の豪雨で自宅を失ったこと
何も考えられず 
ひとりで仮設住宅に閉じこもっていたこと


そんな数か月がやっと変わったのだ・・・と


きっかけは娘さんからの電話で
「(ショッピングモール)へ行こう」と
誘われたことだったそうです


過去何度も同じように言われても 
その気になれなかったが
ふと このままじゃだめだ と思えたのです

自分でも不思議なほど 切り換わって 
今こうしています と 
涙声でゆっくりと話されました


私はただ聴くばかりでした 
うなずくだけでした


そして携帯電話が鳴り
「娘からです」とニッコリし 席を立たれ

「今日は出てきてよかった
あなたに会えて・・・つまらん話を 
よー聞いてくださってありがとうございました」と
右手を出され 握手をしました


復旧、復興のニュースを目にするにつけ 
あの方はどうされているだろうかと案じ 
心から幸運をお祈りしています



平成三十一年三月五日



庭に「ふきのとう」が生れました
童謡『どこかで春が』を口ずさんでいます



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